『遥北通信』144号(H6.10.1)

富山県福光町の『ねつおくり』行事

幾島清司

富山県西礪波郡 (にしとなみぐん)福光町(ふくみつまち)で、伝統行事の「ねつおくり」が、土用に入って三日目にあたる7月22日に行われた。

 これは子どもたちが行列を組んで、 「熱おくるばい、熱おくるばい」と元気な掛け声を水田に響かせ、今年の稲の豊作を祈願するのである。富山県は加賀藩の領土であったが、その時代から続く風習で、高温多湿のこの時期に発生しやすい害虫やイモチ病の予防を神々に祈って始まったと伝えられている。五色の短冊で飾ったササを手に持ち、熱太鼓の音(リズム)に合わせ、 「送るばい、送るばい、熱送るばい」と稲に声を掛け、ササで稲につく害を払いながら、水田地帯を練り歩くのである。短冊には「五穀豊穣」など祈願の文字が書かれている。練り終わった後、この町にある福光宇佐八幡宮では、五穀豊穣祭が行われた。

 農家の素朴な神への祈りの信仰の形態であろうが、民俗伝承行事の一つといえよう。「熱送るばい」とは、イモチ病は伝染病なので、ササで「病原菌を追い払ってやるぞ」の意味だと考えられる。ちなみに五穀とは「米」「麦」「粟」「黍」「豆」の五種をいう。また、穀物の総称を指すこともある。