『遥北通信』141号(H6.5.1)

松本市神林寺家の道祖神祭り

三石 稔
 松本市神林(かんばやし)は、松本市街地の西にあたる奈良井川左岸の比較的平らな地域である。地区の東側を中央自動車道が通過しており、また南側には松本空港がある。この7月からはこの空港がジェット化となり、大阪・福岡・札幌の直通便が就航し、交通の便が良くなる。

 この神林には七つの集落があり、人口は5000人余である。道祖神は9基あり、そのうち像を彫ったものが4基、文字碑が5基である。松本には旧市街以外の旧村が15村あるが、その村々の中では比較的道祖神の数が少ないところである。七つの集落というのは、川西・川東・南荒井・寺家(じけ)・町神(まちかん)・下神(しもかん)・梶海渡(かじがいと)であり、ほぼ一集落に一ヶ所の道祖神を祀る場所がある。この中で寺家では、夏に道祖神祭りを行なっており、少し他の場所と違っている。松本市の場合、小正月あるいは2月8日のコトヨウカのあたりに祭りを行なうケースが多いわけであるが、ここでは8月に行っている。近在では松本市の北側にある三郷村など安曇地方において夏に道祖神祭りを行なう所があるが、松本市では珍しいケースである。

 8月の第1日曜日か第2日曜日が道祖神祭りの日に充てられており、いつごろから始められたかは定かではない。小学校6年生の男女が夏休みに入ってから、各家に配るお札の用意をする。「道祖神」の版木があって、これを使ってお札刷りをするもので、版木は地区の福応寺にふだんは預けてある。「道祖神」と書かれた神輿は、周囲を杉の葉で飾り付けられており、子どもでも担げる小型のものである。松本市には夏の子どもの行事として伝承されている「青山様」という行事があるが、この青山様でも小型の神輿が男の子によって担がれ、町内のそれぞれの家を回っている。寺家の神輿は、この神輿とよく似ており、元は青山様を摸して始まっ たのではないか、と 推察される。この神 輿を担いで、「ドー ソジン、ワッショイ、 ワッショイ」とはや しながら各戸を回る のである。それぞれ の家では賽銭として 300円以上をお礼に出す と決められている。町内を(松本では行政上の一集落単位を町会という言い方をしており、 町内という言い方は村部でも聞かれる) 一巡すると、公民館に集まり茶話会を開 いている。神輿に 「寺家子供会」と書 かれているように子供会の行事になって おり、子供会の長を勤める子どもの親が中心になって祭りを執行している。したがって茶話会で出される昼食の冷し中華も、母親たちによって作られている。道祖神の碑には飾り付けがされるが、これは町会長が受け持っている。

 寺家の「道祖神」は文字碑であり、「文化五戊辰八月吉日」の銘がある。